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年金が心配なので人生100年時代の老後資金について考える

LIFE SHIFTがベストセラーになったのをご存知の方もいるかもしれないが、日本は他国に類を見ない長寿化を果たした特異国といえ、内閣府『高齢社会白書』によれば、平均寿命は軒並み右肩上がりで推移しており、2015年で男女ともに80歳を超える寿命であり、推計値では2050年には女性で90歳を超え、男性でも84歳を超えると試算されている。

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1 高齢化の現状と将来像|平成29年版高齢社会白書(全体版) - 内閣府

今後、技術的な進化(医療や介護などの生命維持面における技術進化)を遂げていくことを前提とすれば、寿命が延伸されていくであろうと予想できる。そして、人生が100年とは言わずとも、現在の平均寿命よりも長くなることを前提に設計していくことが求められることにもなるだろう。しかし、そうなったとして、金融資産が年金だけで賄えるのか。今回はそれを考えてみようと思うが、結論として、いわゆる老後の金融資産を年金だけで賄うことは不可能だ。


100年間生きるとして考えた場合、いわゆる「老後」が長くなる。100年間生きるとしたら、20歳から60歳まで働き、年金を納めたとして、支給年齢65歳から100歳までの35年間が老後だ。現役世代と言われる生産年齢人口*1は、15歳から64歳までで構成されており、その数は年々減少していくことはご存知の通りだと思うし、改めて説明することもないだろう。

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1 高齢化の現状と将来像|平成29年版高齢社会白書(全体版) - 内閣府

就業者は、それぞれの人的資本*2を市場*3へ投入し、その対価として金銭を授受する。

つまり、サラリーマンとして企業や団体に所属し、組織内で与えられた役割に対し、給与という形で所得を得ることで生活をしているケースや、個人で業務委託を授受したり、企業間で取引を行ったり、とそれぞれの人的資本を投入する場所を選んでいる。

しかし、老後の資産形成における本質的な課題は上でも述べたが、その長期間にわたる老後期間を現役期間の間の蓄えで賄えるのかどうかだが、そんなものは不可能だと言わざるを得ない。あまりにも長すぎるのだ。人的資本を何歳まで投入し続けるのか、または何歳まで投入し続けられるのか、を考え出すと気が遠くなる。

だが一点明白な答えとして、人的資本は投入する期間が長ければ長いほど老後が短くなるといえ、気が付いている人はすでに行動しているだろうが、自らの人生を謳歌するため、基本的にはそれを目指すべきだ、というのがぼくの考えだ。

しかし、そうはいっても「リタイアはしたい」という人も中に入ることも重々承知であるし、2018年2月時点における日本の制度設計的には、60歳定年(望めば再雇用)、65歳から年金受給というのが標準設定であることを踏まえると65歳以降の資産運用を各々が準備しなければならない。

年金は、1959年第二次岸内閣において定められた国民年金法の成立を背景に国民年金が導入されたのが始まりだが、言ってしまえば年齢による強制解雇によって労働市場からの退場を余儀なくされるサラリーマンという日本独自の職業に属する人たちの救済する手段として制定されたものだ。なお、ねんきんネット|日本年金機構では、自分が納めた金額や受給金額のシミュレーションが可能なので、リンクを貼っておく。

日本年金機構

65歳以降、我々はどれほどの金融資産を用意する必要があるのだろうか。総務省が公表した2017年12月の家計調査報告(二人以上の世帯)において、60歳以上の消費実数は273,454円となっている。

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家計調査報告〔二人以上世帯の場合〕-総務省

この金額が12ヶ月として、3,281,448円/年が相場だとして考える。つまり、一般的な家庭が普通に生活を試みようとした場合、65歳以降は1年間に300万円を超える金額が必要で、さらに65歳-100歳という35年間で計算すると114,850,680円、つまり1億円を超える資産が必要ということになる。

果たして、これを年金でまかなうことは可能なのだろうか。日本における公的年金国民年金と厚生年金の2種類だ。

国民全員に加入が求めらる公的年金があり、その上に厚生年金などが上乗せされることから、日本の年金制度は2階建と表現される。さらに、確定拠出年金厚生年金基金国民年金基金などが上乗せできることになっており、最大で3階建とすることが可能になる仕組みだ。対象者や体系図は下記のように厚生労働省はマンガで年金を検証する形で公表しているので、参照いただきたい。(内容については個々人で判断していただきたい。)

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日本の公的年金は「2階建て」 | いっしょに検証! 公的年金 | 厚生労働省

さて、ここからは支払う金額と受給金額について見ていくが、国民年金の保険料は月額16,900円に引き上げられ、これ以降は固定されることになっている。年額で202,800円であり、20歳から定年を迎える60歳までの40年間支払い続けると8,112,000円。

それに対して満額の総支給額は2017年4月で779,800円/年となっており、月額で64,983円ほどだ。無論、この段階で生活をすることは困難であろう。夫婦ともに国民年金のみへの加入だった場合、月額129,966円になるが、上で見た一般生活者における2人以上の生活における消費実数は273,454円のため、143,488円の赤字となるため、国民年金のみでの生活は困難というよりも現実的ではないだろう。

老齢基礎年金の受給要件・支給開始時期・計算方法|日本年金機構

しかし、仮に100歳まで生きるとした場合、現行制度のまま移行し多として、支給金額の総額は27,293,000円(779,800×35)となるため、3.36倍の利回りということになり、金融商品として見た場合、雑な計算であるとはいえ、非常に有利な金融商品といえる。

また、厚生年金の支給金額は平均148,000円ということだが、共働きか否か、独身か夫婦かによって金額が変わるうえ、夫だけが働いていて、奥さんが専業主婦だった場合にも金額が少なくなる。

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厚生年金保険・国民年金事業の概況 |厚生労働省

だが、ちょっと待ってほしい。世界中でも類を見ることができない少子高齢化の日本において、国民年金の運用はそれほど余裕があるのか。バカみたいな高利回りの配当を国が排出できる仕組みはどこにあるのかを冷静に考えると、それは厚生年金や社会保険料の上乗せ徴収というサラリーマンにとって不都合な事実が浮かび上がってくる。

公的年金への加入は国民の義務として課せられていながらも、国民年金の場合、加入手続きも保険料の納付も個人の自主性に任されている。つまり、支払わない人間がいたとしても、それは個人の年金受給額や期間が減少するのみであり、基本的に罰則は存在しない

毎月、国民年金に加入し、毎月保険料を納めている人間は、徴収される金額が少ないとしても支払われる(受給できる)金額に変更はなく、その期間が100年生きるとして受給期間が延伸されるのであれば、得をする。

それでは、その尻拭いを誰がするのかといえば、すでに触れた通り、サラリーマンだ。徴収される厚生年金を含む社会保険料介護保険料は企業との折半によって支払われているが、これは強制的に徴収できる仕組みを作っていることで、その実質的な負担額を目くらましをしていることに相違ない。

組合健康保険と国民健康保険での違いは、当初、組合健保に加入する人たちは本人が1割負担、家族が2割、世帯主の保険料で扶養家族の保険がカバーできたことにあるが、現在では見る影もなく、本人家族ともに一律3割負担(扶養家族の保険料免除は維持)に及んでいる。結局、組合健保も公的保険の一部であることを考えれば、高齢者の医療費を分担する義務が生じていることは仕方のないことなのだが、その仕組みはサラリーマンにとって相当にいびつなものだ。

下図は厚生労働省が29年度の予算ベースに医療保険の意義について説明するページからの引用だが、これを見る限り、高齢者の医療負担を現役世代が支えることは従前通りだが、本来的には組合員であるサラリーマンが厚遇されるべき組合健保も、世帯に対する保険料の減免はなくなった末に、高齢者への支援金が増加するという恐るべき結果になっており、サラリーマンは望む望まないに限らず、多くの負担を強制的に徴収される仕組みになっている

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我が国の医療保険について |厚生労働省

これらの負担をきちんと認識しているサラリーマンはどれほどいるだろう。国民年金の負担も厚生年金で尻拭いさせられ、健康保険も高齢者への負担を強いられているが、それに関してはこうやって改まって仕組みを見て見なければわからないのは仕方ないとしても、社会保険料を含めた納付額を把握することに馴染みがないのは自らが納税作業を行なっていないことが最も大きい。

しかし、これは会社が源泉徴収と年末調整、つまり、納税作業を代替して取り組んでいるため、納付額を知ったところでサラリーマンが取れる手段はなく、関心がなくなってしまうのは致し方がない。すると余計に手取り金額のみが中心になるため、益々、関心が湧かなくなり、納付額について考えることをやめてしまう。

ここで言いたいことは、現役で働いている人たちは多くの負担を強いられるのに、受給に関しては損をする可能性が高い、ということだ。公的年金や健康保険の財政は悪化の一途をたどっていることは否定できない事実であり、今後も既定路線であることは揺るがない。

制度的に解決策が残されていないわけではない(社会保障を全面廃止、消費税のみで徴収など)が、政治的に不可能だ。そんなことはできるわけがないから、制度が破綻するまで継続せざるを得ない。

しかし、国も現状に対して無為無策かといえばそんなことはない。昨今、NISAやiDecoなどを税制的な優遇を与えることで『年金に変わる老後資金』を準備を『個人』へ『実質的に依頼』している。なお、本エントリでは、年金の代替的な位置付けとして『NISA』ではなく、『つみたてNISA』と『iDeco』について扱いたい。

NISAとは? : 金融庁

iDeCo(イデコ)/個人型確定拠出年金 |厚生労働省

そもそもNISAとは、イギリスのISA(Individual Savings Account=個人貯蓄口座)をモデルにした日本版ISAとして、NISA(ニーサ・Nippon Individual Savings Account)と呼称され、「NISA口座(非課税口座)」内で、毎年一定金額の範囲内で購入したこれらの金融商品から得られる利益が非課税になる、つまり、税金がかからなくなる制度です。なお、イギリスのISAを模倣して作られた制度ではあるものの、異なる部分もある。イギリスISAには期間制限がなかったり、対象商品内容や数にも違いがある。

つみたてNISAは、年間40万円まで20年間非課税での投資運用が可能ということになる制度だ。最大で800万円の非課税投資が可能ということだ。

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iDeco確定拠出年金法で定められている私的年金公的年金との違いは、個人が掛金を拠出し、その運用方法を選べることにあり、その掛金と運用益との合計額をもとに給付を受けることが可能となる。2016年までは自営業者やサラリーマンに限定されていたが、2017年1月より企業年金を実施している企業への勤めるサラリーマンや専業主婦、公務員など、基本的に公的年金制度に加入している60歳未満の全ての人間が加入できる。

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では、これらの制度を使うことでどれほどの余裕を作り出すことが可能だろうか。厚生労働省の賃金行動基本統計調査における一般労働者の賃金を参考に計算してみる。厚労省のデータによると2016年度の平均年収は男女ともに304万円ということだが、わかりをよくするために300万円で計算する。

平成28年賃金構造基本統計調査 結果の概況|厚生労働省

 

投資の前提として、生活資金の中から余裕資金を生み出した上で資金を回すことを考慮すると、年収の中で1割程度、頑張って2割程度を拠出することが限度だろう。すると、年間で30万~60万円、月額で2.5万~5万円が毎月の掛金となる。ここでは年収1割をもとに計算してみる。

合計掛金2.5万(内訳: つみたてNISA 1.5万, iDeco 1万円)※内訳比率はぼくの好み

つみたてNISAの場合、合計投資額が3,600,000円(月額15,000×12ヶ月×20年)だが、そこに年間利率8%で運用した場合、最終資産は8,595,862円となる。差引利益が4,995,862円だ。

なぜ、ここまで利益が膨れ上がるのかといえば複利効用だ。例えば1年目、年間で180,000円の投資額に対して、利率が8%であれば、年間で14,400円の運用益が生じ、次年には投資元本が194,000円の状態で投資を開始する形となる。

つまり、毎月の投資額は同じだとしても翌年末には投資額の合計が360,000円で変わりないはずが、毎月平均8%の利率が上乗せされた状態で運用益が発生し、最終資産が390,715円で投資元本に対する利益は30,715円だ。

投資ではこの複利運用をいかに膨らませられるのかが鍵となる。つみたてNISAでもiDecoでも運用利益に対する課税が免除されているため、投資に対する運用益も含めて全てが再投資できるのが大きな魅力であり、最大の利点だ。

 

iDecoは基本的には課税控除については同様なので、この控除額について触れてみたい。ちなみに、税制優遇のシミュレーションもしてくれるので、興味がある人はしてみてほしい。

かんたん税制優遇シミュレーション|イデコガイド|老後のためにいまできること、iDeCo|国民年金基金連合会

今回のシミュレーションでは、30歳から毎月1万円を積み立てた場合で計算してみると、税制控除額は30年間で54万円が控除額となる計算だ。仮に30年間8%で運用ができた場合には、最終資産は14,185,648円で、運用利益は10,585,648円。

毎月の掛金がスタート時には少なかったとしても、複利を利用して資産運用ができるのであれば、期間が長ければ長いほどに我々の資産は増大していく

本エントリの結びとして、ぼくが最もいいたいのは、人生が長くなることが目に見えている中で、老後というこれまでの既成概念を前提にするのは勿体ない。そもそも老後は自らが仕事というやりがいを放棄した瞬間から発生する生き地獄であり、定年という制度を前提にしているものだ。

 

ぼくたちは『制度の奴隷』として生きるのではなく、『制度を従属』させること、つまり、法制度や税制というゲームに対し、いかにして立ち向かうのかを問われるし、立ち向かうことが人生を楽しむための方策だと考える。

本エントリを読んだ結果、今後100年生きる上で自身の金融資産を作っていくことを考えるきっかけになれば幸いだ。

【関連書籍】

 

*1:生産年齢人口(せいさんねんれいじんこう)とは、経済学用語の一つで、国内で行われている生産活動に就いている中核の労働力となるような年齢人口のことをいう。(wikipediaより

*2:ヒューマン・キャピタル(英: Human Capital)は、人間が持つ能力(知識や技能)を資本として捉えた経済学(特に教育経済学)の概念。 人的資本と表現されることもある。 具体的には、資格や学歴として測定される。 初期の経済学では単に労働力や労働として捉えられていた。(wikipediaより) 

*3:市場とは、定期的に人が集まり商いを行う場所、あるいは、この市場における取引機構に類似した社会機構の概念を指す。(wikipediaより