【齊藤元章、井上智洋】『人工知能は資本主義を終焉させるか』は未来へのワクワクを感じさせる本だ
現実がSFを超える日は近い
人工知能は資本主義を終焉させるか 経済的特異点と社会的特異点 (PHP新書)
- 作者: 齊藤元章,井上智洋
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2017/11/16
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- この商品を含むブログ (3件) を見る
今回は齊藤元章さんと井上智洋さんの共著である
人工知能は資本主義を終焉させるか 経済的特異点と社会的特異点 (PHP新書)
を読ませていただきましたので、レビューさせていただきます。
まずは、お二人の略歴を表紙裏の表記から。
齊藤元章(さいとう もとあき)
スパコン・人工知能エンジン開発者。研究開発系シリアルアントレプレナー。医師・医学博士。新潟県生まれ。新潟大学医学部卒業、東京大学大学院医学系研究科修了。大学院入学と同時に医療系法人を設立し研究開発を開始。震災後に米シリコンバレーから拠点を日本に戻す。
井上智洋(いのうえ ともひろ)
駒澤大学経済学部准教授。東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業。IT企業勤務を経て、二〇一一年に早稲田大学大学院経済学研究科で博士号取得。人工知能と経済学の関係を研究するパイオニア。
超個人的なことを言えば、齊藤さんが新潟県長岡市出身ということにものすごく興奮しています。
...どうでもいいですね。
本書は、最近、僕なんかでも耳にする機会が増えてきた“シンギュラリティ(技術的特異点)”*1以降の世界は現状の資本主義経済を終わらせることができるのかどうか、という点で両者が議論するという内容。
その議論の中で出てくる内容は、シンギュラリティが起こることが前提となり、いま、僕たちが住む世界の世界観、常識(特に金銭や生活についての認識)が一気に崩せる可能性を示唆しています。
特化型/汎用型人工知能って...
まず、シンギュラリティが起こる前提条件となっている汎用型人工知能ってなんだ?って話です。
現在、我々の生活の中に人工知能は、ある程度普及しています。
例えば、iPhoneをお持ちの方だったら、siriもそうですし、将棋とかチェス、クイズで機械が人間に勝ったなんてニュースを見かけることもあります。
ボクたちが検索する際にGoogleの検索枠を利用してワードを入れ込んだりしますが、あれも人工知能が働いていて、PCで検索を行うと以下のように表示されます。
『0.48秒で約11,000,000件』と出ていますが、これ、この検索ワードに関連し、なおかつボクのこれまでの検索などの状況を踏まえた上で最適であろう検索結果を表示してくれるのに計算されているもの。
他にもボクたちの生活のあらゆるところに、すでに人工知能というのは存在していて、ボクたちの生活を支えてくれています。
Googleなんかは検索アルゴリズムについて資料をダウンロードできるようになっていたりしますので、興味があれば。(Google検索アルゴリズムのリスト)
しかし、これらの人工知能は汎用型人工知能ではなく、特化型人工知能と呼ばれるもので、その名の通り、何かしらの機能に特化された人工知能ということ。そして、特化した機能では、人間を凌駕することができている、ということです。
汎用型人工知能というのは、「汎用=様々な用途や分野に用いられる様」といった使い勝手のいい、というイメージではなく、自立した機械ともいうべき存在であり、意思のない人間というか、知能というか...。
人間では不可能なたくさんの計算や複雑なシミュレーションなどを踏まえた上で判断することが可能な存在にでもなると言えばいいのでしょうか。
そんなことを聞くとなんだか怖くなってしまう人もいるかもしれませんが、その点については、井上さん人間がロボットには負けない領域をCMHと呼び、以下のように述べています。
- Creativity: 創造性
- Management: 経営・管理
- Hospitality: おもてなし
AIが人間とまったく同じような感性を備えていないかぎり、AIの創作活動は人間の感性とは合わないあさっての方向に進んでしまう(井上)
汎用的人工知能は、人間のやっている社会的な技能をあらゆる部分で代替できる知能を持ち合わせることができるけども、感情や感性など、数値化しづらい部分については、人間に似せる作業を繰り返し行っていくことになるだろう、ということです。
2030年経済的特異点
機械化経済⇒純粋機械化経済
本書の中で触れている経済的特異点については、2030年というのをボーダーラインに語られており、汎用型人工知能の登場によって、経済構造がガラリと変わることを指摘しています。
これは、既存の資本主義は、機械と労働という2つのインプットを通じて生産活動が行われ、そこで生産されたモノが消費される、という機械化経済(機械化を目指す経済)が前提となっています。
その前提の上で、汎用型人工知能の登場することで、労働がいらなくなり、AI・ロボットを含む機械のみがモノをつくるようになる経済、これを純粋機械化経済と著者の一人、井上智洋氏は述べます。
日本のデフレの根本原因はなんだ
井上氏は、日本のいわゆる「失われた20年」の根本的な問題として、世の中に出回るお金の総量(マネーストック:現金と預金)があまり増えていないことを上げています。
日銀(日本銀行)は、買いオペレーション、すなわち国債の買い取り、預金準備金を日本銀行の当座に溜め込み、いつでも貸し出せる準備をしているわけですが、市中銀行が顧客に対しての貸し出しを行えません。
これは市中銀行がサボっているわけではなく、日本をはじめとする先進国では、資本主義の発達により、資本蓄積が進んでいることが大きな理由である、としています。
つまり、企業には莫大な内部留保が存在するため、銀行から資金を調達せずに営業活動を行うだけの体力(資金力)があるということなのですが、それだと結局、お金の総量自体は現状のまま推移していることになるため、日本の中に貨幣が増えない、と。
だから、日本の製造業にとって代わって中国が安く物を作り、それが流通しているから日本の中ではデフレが終わらないんだ、などという構造的な問題とは異なるんですね。
何だか、がんばって成長してきたのに、自分たちの手で自分たちの首を絞めているような...そんな何とも言えない気持ちになります。
総需要の減少?
需要・供給関係でいえば、企業側の内部留保は、どちらかといえば供給側のうれしい悲鳴みたいに聞こえますね。
しかし、それだけではなく、需要側、つまり我々消費者側にも要因の一端があり、それは日本の社会問題でもある”少子高齢化が起こす絶対的な需要不足”が担っているのではないか、と齊藤氏は指摘するも、井上氏がそれは影響していない、と反論します。
説明の内訳を聞けば納得。
本来的に言えば、少子高齢化=需要サイド増加=インフレが起こるはずであり、現状はそうなっていないことを踏まえると、マネー不足、つまり、市場に流れるマネー自体が不足しているからこそ、デフレの状況である、ということです。
この箇所は、読んでいて非常に興奮し、えらく納得した部分でもあるのですが、それはつまり、格差の拡大を増長へと進むことを示唆します。
ピケティの「R>G」
『21世紀の資本(みすず書房)』の中で、ピケティは今後、資本家有利の時代、つまり格差が広がっていくことを指摘していますが、現状のまま経済が推移していくのであれば、それは避けられないのかもしれません。
ボクみたいな些末な労働者は、懸命にないスキルを必死に吐き出しながら身銭を稼ぐことしかできませんが、資本家は違います。
すでに資産を保有している彼らは、先を見通し、そこに投資を行うことで莫大なリターン(R)を受け取ることができますが、労働者は経済成長(G)が発生し、企業利益が上がらないことには収入を増やすことができません。
このことから、資本家と労働者の間には大きな格差が生じてしまうことを意味し、それが埋まることは絶望的とさえ...。
また、本書の中で、二人は日本の累進課税の累進性が機能していないことを指摘し、その格差が如実に広がっていくことにも触れることから『ヘリコプターマネー』を含む『ベーシック・インカム』の話題へと進むわけです。
ベーシックインカム
井上氏は今後、労働が不要になる純粋機械化経済の到来に伴い、雇用を失った人々の生活を支えるための社会保障制度として、安定した財源である税金を原資として実施される『固定BI』と、需要増大・景気安定化のためのヘリコプターマネーを財源として行われる『変動BI』を導入すべきだといいます。
これは貨幣制度『レジーム・スチーム』を返還させることを前提にされているのですが、詳細については、ぜひ、齊藤氏とのやり取りを踏まえながらの方が面白いので読んでいただきたく思います。
ちなみに、ヘリコプターマネーについては、井上氏の著書もそうですが、本書内には以下のような説明が書いてありました。
ヘリコプターマネーとは、政府や中央銀行のような公的機関が、空からヘリコプターでお金を降らせるように、貨幣を直接市中に供給することで景気を浮揚させる究極の方策
『究極の方策』と書いている点に、愛嬌と胡散臭さを残しながらも、真剣味を与えていますね(おい)。ボクはこんな表現が大好きです。機械にはこんな無駄なこと、できないだろうな。
また、井上氏はヘリコプターマネーについて、以下のように述べており、個人的にはヘリコプターマネーと聞いても全く抵抗を感じないし、むしろ早くやって欲しいと思っているぐらいです。
あまり現実的ではないかもしれませんが、私自身は、皆さんにはヘリコプターマネーという言葉を聞いても抵抗を感じないぐらいに、くだけた性格になってもらいたいと思っているんです(笑)(井上)
新しい消費税
また、齋藤氏は一つ、大切なことを投げかけて来るのですが、こういう視点から科学に携わっている人がいる、というのを知った瞬間、ボクは頭をどつかれたような気になりました。
なぜ、お金は使う人によって価値に差が出ないのだろうか(齋藤)
これはボクの奥さんも同じことを言っていて、聞き流していたのですが、所得が違うし、所得税も違うのもわかるんだけど、なぜ、消費税は高額所得者であろうが、低所得者だろうが“一律”なんだ、というものです。
ボクは奥さんからその疑問を呈された際に、「所得の高い人と低い人では買うもの自体に(量・質共に)差があるから、所得の高い人はドンドン買うし、その分納税する形になるから」と答えました。
しかし、さらに彼女から来たのは「いや、そこはいい。それはわかる。けど、だからと言って、生活用品とかにも一律ってどうなの?」という疑問。
齊藤氏は、(違うかもしれないが)同質のことを本書の中で触れてくれていて、さらに井上氏とともにその解決方法として新しい税制についても提示されています。
そもそもの問題点は、高額所得者に対して、現行の所得税における累進性が機能していない点なわけですが...
内容としては、お金が現状絶賛沸騰中のBitCoinのように、高機能化・電子化されていくことで、『誰がどんな対象物について、どんな用途やタイミングでお金を払っているのか』を把握することができるようになり、それに基づいて課税するというもの。
イメージとしては、クレジットカードの支払いみたいなイメージですかね。
金額自体は店舗やECサイト上で確認しますが、上記したことを踏まえて購買活動ごとに課税されるという点。
お金持っている人からしたら嫌になりますかね?
社会的特異点
シンギュラリティよりも一歩手前で起こると考えられている『社会的特異点』、それは人々の価値観や意識が大きく変わってくることを指す、ということです。
生活コストがフリーに
人々の価値観が大きく変わる転換点となる最初のドミノがエネルギーである、と齊藤氏は述べるのですが、そのキーとなるのは『常温核融合』だとしています。
以前までは“疑似科学”というレッテルを張られるほどに再現性のない技術だったのですが、今ではほぼ100%再現性を確認できるようになっていて、2016年以降、研究を再開されており、100℃以下で起こる反応でありながら、中性子線も一切放出されないため、小型化しやすく、保守管理しやすいエネルギー源になる可能性が出てきているとのこと。
なぜ、そのようなことが可能になるのかという前提条件が、スーパーコンピュータの性能向上にあり、何度もシミュレーションを行うことが可能になることで、どんな条件ならばほぼ確実に動くのかを割り出すことができるようになるとのこと。
また、ここは日本にとっては非常に重要な点だと思うのですが、原子力発電のように核分裂を起こしてエネルギーを取り出す装置と異なり、装置が倒れたり、壊れたりした場合は反応が一切止まって終わる、という点。
たとえ損壊を起こしたとしても、反応が一切止まっているので放射性物質を人間が浴びるということがありません。
もっといえば、常温核融合は、反応中も反応後も放射性物質を含め、本当に何も検出されないそうで、反応の信憑性が疑われるぐらいだそうなので、朗報以外の何者でもないですね。
エネルギーがフリーになった上で起こることは、われわれの衣食住がエネルギー問題が解決されることにより、フリーに近づいていき、最終的にはフリーで生活できることが可能になるということです。
合成肉は現状ですでに生まれていますし、人口で肉を加工する技術も早々に解決する可能性が高く、パナソニックのように人工光での植物栽培を試みるケースも増えてきました。
絵空事だと馬鹿にできないのは、すでに3Dプリンタを利用しての建築も可能になってきました。
VRの技術も進歩していますので、娯楽という没入間が必要な、つまり場所を選ばなければならないものが、場所を選ばずに楽しむことができるようになります。
なぜ、ここまで齊藤氏はフリーになることに拘るのか、という点において、以下のように述べており、ボクは読んだ瞬間に、同じ人間として尊敬しました 笑
事件や犯罪の大半がお金にまつわるものだとすればわ人々はお金にまつわる一切の問題から解放されるべきではないかと真剣に思うのです。(齊藤)
コンピュータが人間を超える
上記の未来がなぜ実現可能だといえるのか、といえば、コンピュータの能力が人間を圧倒的なまでに越えることがすでに計算できていることにあります。
齊藤氏の言葉を借りれば、人が介在できないレベルになるとのこと。
これは、高速の人工知能エンジンと高速の次世代スーパーコンピュータが組み合わさることで、人手を介さずに仮説や検証を行い、理論を作り出すことができるようになるということで、以下の3項目で
- 今後一年半で1,000倍近く高速になったAIエンジンが出てくると、とてつもない仮説が大量に生み出されるため、その全てに実験系を作り、実証することは数の問題から言っても人間には不可能
- 遺伝的アルゴリズムなどの高度な数式は人間には誰も理解できない。そもそもこういった高次の仮説は人間には理解すらできないし、検証もできない。
- 複雑さ。人間が対応できる複雑さは1対1、1対2、3のように1対nの対応関係に限られる。しかし生命科学等ではn対nの関係になるようなものばかり。例えば、基礎疾患で4つの病気に羅漢している人が5種類の薬を飲み合わせた場合(効果・副作用)の計算などは人間には到底理解しようがない
もう、人間の計算できる能力をはるかに凌駕した機械がすぐそこにあるんですね。
んで、次世代のスーパーコンピュータに、現在よりも1000倍高速なAIを組み合わせ、さらに日本の中で開発された量子コンピューティング技術である量子ニューラル・ネットワークが合わさることで『組み合わせ最適化』が可能になるとのこと。
組合せ最適化というのは、『与えられた条件を満たす組合せの中から、最適なものをできる限り短時間で探し出すこと』。つまり、人間が計算する必要がなくなることを意味します。
人間は最終的に、その中のよさそうなものの中からどれにするのかを選ぶだけの存在になりそうで、それはあと2、3年もあれば実現してしまうレベルになっているそうですよ。
興奮しすぎて、何もまとまらなかった
もう、最終的に、ここまで書いてきて、まとまっていないこと、引用だらけになってしまっていることに多くの反省をしております...。
しかし、未来にちょっとでも興味がある人ならば、ぜひ本書を手に取り、呼んでいただきたいと思います。
本当にワクワクするし、齊藤氏の優しさと、井上氏のユーモアっぷりに脱帽しますから。
お二方、楽しい本をありがとうございました。
人工知能は資本主義を終焉させるか 経済的特異点と社会的特異点 (PHP新書)
- 作者: 齊藤元章,井上智洋
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2017/11/16
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- この商品を含むブログ (3件) を見る