{DE}dolog

dolog=blogにdo、動詞をつけた造語です。 情報選択行動のlog(記録)として書いていきます。

ドイツはライプツィヒからの帰国 その21

前回からの引き続きで、「状況対応行動」について触れていきます。

今回は、その中でも戦術や戦略の前提条件についてからお話していきたいと思います。



これらはまず、「知覚・認識プロセス」が重要となります。

つまり、“情報の受容”です。

外界からの情報を受容し、それを自らの中に落とし込む事から行動イメージを作り上げていきます。

そこから実際に動作として表現し、再び情報の受容を行い…

というプロセスは以前のブログ記事(ドイツはライプツィヒからの帰国 その8、その18)の中、動作学習や情報系パフォーマンス前提をご紹介する際に触れました。



試合前にミーティングを行うのは、“イメージの植え付け”を行うためであり、重要なことを何度も繰り返し伝える事は、それだけ強烈な“イメージ”を抱いてもらうため、と言い換える事が出来ると思います。





次に、それらを踏まえた上で、その準備段階、つまり練習段階で選手に対して指導する際にどんな事が起こっているのかを簡単に説明すると…



まずは、兎にも角にも“情報の処理とその保存”が優先的に行われます。

そこで抱いたイメージから自らの力量を判断し、さらに相手との力関係も図ります。

(場合によっては相手への挑発という行為で、相手の精確な情報処理プロセスを妨害する事もあります。)

相手の意図した行動への適切な対応を行う訳ですが、これには選手の判断→行動という順序で常に繰り返されます。



以上のことを踏まえた上で指導者は、状況があまりにも混乱している、選手の判断があまりにも短絡的、未熟な場合には、状況を止めて選択肢の提示を行い、再び学習を進めていきます。









ハルトマン博士は競技スポーツの中での状況対応について、こう言います。



「Antizipation:アンチティペーション(予測≠予知)が重要であり、その予測というのは“経験”を抜きにしては語れないものである」



ここで皆さんにお考えいただきたいことが一つあります。

ここでいうアンチティペーション(予測とします)はそもそも運動能力なのでしょうか、それとも思考能力なのでしょうか。



これについてハルトマン博士はこう述べます。

「アンチティペーションは7つのKoordination能力の中に内在しているものである」と。



例えば、反応という能力の中には単一反応と選択反応という風に分ける事が出来るのです(単一反応は一つの刺激に反応するもので、選択反応というのは2つ以上の中から選択し、反応するというものです)が、球技系スポーツの中では常に選択反応が求められる事が多いのですが、その選択反応にしても、準備をします。

ある程度、予測をもった上で選択している、という事です。



適切なパスというとコオーディネーション能力の中で言うと、分化能力の割合が多く、微妙な距離加減が必要とし、自らのポジションの変動は定位能力が必要なのですが、適切なポジションを取るにも、経験を土台にした予測が発達してくる事によって大きく差が生じてきます。





“予測”に加えて、“反応、変換(適応)能力”が不可欠であり、“動作のスピード”(判断のスピードまでを含めて)、そして“スポーツ技術スキル”、これらが必要不可欠であり、同時にこれらは“情報系のパフォーマンス前提”である事が分かります。



それと共に、専門的な瞬発力や筋持久力というエネルギー系のパフォーマンス前提も必要となります。

エネルギー系のパフォーマンス前提の面で引き合いに出されたのが、テニスの5〜6時間にも及ぶ試合がジョコヴィッチとナダルの間で繰り広げられた全豪オープンです。

長時間に及ぶ試合時間の中でもテニスは瞬間的な力を持続し続けなければならない競技、つまりエネルギー系パフォーマンス前提が不可欠である事が、先日の死闘から証明されました。



そして最後に“戦術的な知識・知性”、つまりインスピレーションやインテリジェンスが必要で、それは、状況の把握、且つ適切な行動をとる準備を瞬時にできる事が求められる、という事です。



Valley ballを例に取りながら進めていきます。

まず、スポーツ技術スキル(動作プログラム)を習得・保存・自動化させます。

この際に戦術的要素を含まない事がポイントです。

理由は、習得の段階で、細かなところまで突き詰めていく必要があるからです。

レシーブであれば、どの角度に来ても狙ったところへ返せる。

トスであっても、ボール状況に左右はされるものの、狙った所へとばせる。

という細部に渡ってこだわる必要があるという事です。



スポーツ技術スキルが自動化されてきた段階で、スキルの中に技術・戦術の要素を組み込んでいきます。(つまりコオーディネーションを取り組む)

バレーボールの中で言えば、純粋なレシーブのみからコンビネーションへと繋げていく事となります。



その段階を経て、試合条件下におけるゲーム形式の中でスポーツ技術スキルを応用していきます。

ここで、ハルトマン博士はこんなことをおっしゃっていました。

「ゲーム能力」という言葉について、ハルトマン博士は必要ない、とハッキリと述べていました。その理由は「抽象的すぎる」からで、結局はコオーディネーションの能力の範疇の中で済んでしまう事ばかりなので、改めてそれを規定する必要はない、という事です。



以上を踏まえた上で、付け加えとしてハルトマン博士はこう言います。

「常に思考が働いた状態で技術スキルを磨いていく必要がある」と。



この言説の理由としては、知的調節水準、感覚運動調節水準という二つの調節水準を理解する必要があります。



簡単に言えば、自らが意識した中で行うものなのか、意識しなくても行えるものなのか、と言えると思うのですが、バレーボールのアタックを例に説明します。



アタックとするためには助走が必要となります。

*前提としてレシーブからトスまでが上手に運べていることとします。



相手のブロックが何枚で、何処のコースが空いているのかを判断した上で打ち込みます。

これが「知的調節水準」。



その助走のステップ、ジャンプのする時の腕の振りあげ、アタックする際の胴体の回転、引いて言えば胴回転の際に起こっている筋収縮というのは、意識しなくても出来るものであり、それを意識していると動作は非常に“よどんだ”ものになってしまい、動作速度は遅くなります。



ビギナーの場合には、例えばレシーブやトスなどは自分のからだを目一杯意識してしまい、その分動作が硬くなり、上手くいきませんが、熟練者になればなるほど意識は自分のからだでは無く、ボールを何処へとばすのか、何所へとばせば自分たち優位の展開へ持って行けるのか、という所に意識が向きます。



つまり、スポーツ技術スキルは出来る限り無意識下されていかなければ、その上の戦術を高める所まで行けない、とも言い換える事が出来る訳です。





以上を包括的に考えた上で、まとめとして「状況対応行動」をどのように進めてくべきか、を箇条書きします。



・スポーツ種目の知識 →ゲームの根幹的な思考

・スポーツ技術スキルの安定を超えた自在性まで

・各競技種目特有の能力が育まれる

・予測能力の育成

・多種条件下でのスポーツ技術スキルの応用

・各ポジション下でのスポーツ技術スキルの応用

・試合条件下でのスポーツ技術スキルの応用



これらを統合的に考えていくと、例えば一瞬の閃きで状況を打開してしまうような選手は、能力が高いと言えるのはもちろんなのですが、“どれだけ質の高い経験をし、それを実践しているか”が球技系パフォーマンスに大きく影響すると言えます。



指導する立場としては、閃きを引き出す為には(もちろん、階層段階的に生物学的年齢を踏まえた上で)質の高いものを選手に課し、要求する必要がありますし、それを行うためにもスポーツ技術スキルやコオーディネーション能力を体系的に積み上げていく必要性と、そのシステムを構築する事を求められるわけです。



ここが50年以上の積み重ねがなせる業であると共に、日本との差の様にも感じます。



簡単ではありますが、「状況対応行動」についての紹介を終えたいと思います。



次回は、総括としていったんこのシリーズを終了したいと思います。



引用・抜粋)

?トレーニング科学国際集中講座 in Lepzig 基礎資料中

(編集:ライプツィヒ大学スポーツ学部/一般動作学・トレーニング学研究室

翻訳:高橋日出二(ライプツィヒスポーツ科学交流協会))より