{DE}dolog

dolog=blogにdo、動詞をつけた造語です。 情報選択行動のlog(記録)として書いていきます。

{DE}dolog トレーニング科学国際集中講座 in japan 2012 レポート⑶


トレーニング科学国際集中講座 in japan レポート3


前回はスポーツパフォーマンスについて書いてみましたが、今回は引き続きDR.MINOWが講義を担当したエネルギー系プロセスについて。

前回の記事で、パフォーマンスの前提条件に、大別して“情報系”と“エネルギー系”があることに触れ、その内の情報系プロセスについては前々回の記事で触れておきました。

今回は、その真逆ともいえるエネルギー系プロセスについての記事にトライしたいと思います。

パフォーマンス前提としてエネルギー系には何があるのか、という点を考えてみると何があるでしょうか。

このモデルにあるように、情報系は「基礎スキル&スポーツ技術スキル」「コオーディネーション能力」。エネルギー系は「持久性」「ちから」が主に占めます。
37fce452.png



そして、この中間に位置すると考えられているのが「瞬発性」。

これはわかりやすい言葉を使えば「スピード」と言い換えることができるのですが、後々触れますが、生物学的前提からいえば、明確に特定はされていない、ということです。

そこで、前回の記事でだしたエレメンタル(根幹的、基礎的)な能力を探っていくことで、筋の“ちから”に左右されないスピード能力の測定することの重要性が生じてきます。

ちなみに、このモデルで表記されている3つの能力はエレメンタルなもの。つまり、他のどんな要因にも左右されない能力のことです。

能力、という部分についても考えるべきポイントがあるのですが、これについては別の記事に譲ることとして、3つのエネルギー系パフォーマンス前提について触れていきましょう。

まずは、運動パフォーマンス前提モデルの中で最もエネルギー系の影響が大きい、依存度が高い「持久性」について書いていきたいと思います。

持久性能力

…持久性能力は、スポーツ活動の際、疲労によるパフォーマンス低下を最小限に抑える事を可能にするパフォーマンス前提である。

それはスポーツ活動の持続時間に応じて、疲労に起因するパフォーマンス低下が生じた際に必要となる。

この能力はその他、速やかな回復をも促す。

生物学的前提
・エネルギー代謝
・心肺システム
・筋線維構造


つまり、持久性能力は、「疲労からくる運動活動の低下を前提に話が進められ、その低下具合を最低限に抑える働きをする。」ということです。出来る限り質の高い運動を継続するために必要な物、というわけですね。

そして、疲労状態からの回復においても作用し、そのための前提として、身体機能システムであるエネルギー代謝や心肺システム、筋線維構造がある、と。

この、持久性能力がエネルギー系の最たるものである、という理由は、生物学的前提条件を見ればわかりますね。条件の中に情報系の前提が一つも入っていない。

勿論、持久性“パフォーマンス”になれば話は別です。パフォーマンスとなれば、前回の記事の中で触れた様に様々な事象・環境がありますので、持久性“能力”だけで語ることはできません。

だから、ここで語られる持久性というものはエレメンタルなもの、ということですね。

次は「力」。日本では「筋力」にあたるものです。

力性能力

…ちから能力は、筋活動によって、外的抵抗を克服しあるいは、その抵抗に反作用する事を可能にするパフォーマンス前提(機能システム、プロセス)である。
生物学的な前提
・筋線維断面
・筋内コオーディネーション
・筋間コオーディネーションとスポーツ技術
・エネルギー供給
・筋線維構造
・人体計測的・体格的な特徴
・モチベーション


先ほどの持久性との違いが出てきましたね。ここでは筋内、筋間コオーディネーションという文言が出てきました。

読んで字の如し、で、“筋内コオーディネーション”というのは、筋肉の中の話で、如何に運動単位を高めることが出来るか、つまり、リクルートする事が出来るかどうか、ということです。

それに対して“筋間コオーディネーション”は筋肉と筋肉との間に行われる同期のことを指します。

この二つは日本の中で親しまれた言い方をすれば神経系の適応となんて言い方をしているものですよね。

例えばジャンプをする際に、トリプルエクステンションなんていいますが、足関節、膝関節、股関節の伸展が同時に行われるには、それぞれの筋肉が同時に働くことが前提となります。

ここでいう筋間というのは、この大殿筋と、大腿四頭筋と、下腿三頭筋が“巧く”同時に働くように働きかける能力です。

c4477dd3.pngこれに関してはこのモデルを参照していただければご理解いただけると思います。

左側に位置しているのは、情報系に近い能力群で、右に行けばエネルギー系の要素が強くなります。

このモデルもホントによく出来てると思います。

最大の力を発達させるにも、(簡易的に言っても)これだけの要素が絡み合っている、というのを分かりやすく示してくれます。

逸脱するのですが、本当に理解している人って、分かりやすく説明してくれますよね。それと一緒で、このモデルを作った人は本当に理解できているからこそ、ほかの人への伝え方が巧いってことですよね。

トレーニング効果の順序としては、ご存じのとおり、筋内イノベーションが起こり(今までの自分が得てきた情報の言葉を使用すれば、“神経系の改善が起こり”)、その後に筋線維の肥大が起きる、と。

だから、まずは情報系が改善されて、それで賄えなくなってきたからエネルギー系の改善が行われる、ということです。

だんだんと情報系能力に近づいてきました。そこで次は瞬発性能力。



瞬発性能力
…瞬発性能力は、以下の為のパフォーマンス前提(プロセス、機能システム)である。
・所与の条件下で、最小限の時間内にスポーツ行為を実現する(ZACIORSKU 1966)
・タイムプレッシャー下で動作を遂行する(VOSS/WITT/WERTHNER 20007)

それは、スポーツ活動中、疲労に起因するパフォーマンス低下が起きない時に現れる。

生物学的前提
・今までの所、情報系プロセス、あるいはエネルギー系プロセスかは明確に特定されていない


生物学的な前提の所に書いてある情報系プロセスなのか、エネルギー系プロセスなのか、については後ほど補足的に説明するとして。

まずは、日本の中でいわれている“スピード”とここでいう“瞬発性能力”の違いについて述べると、日本の中でスピードっていうと、動きの速さを示すもの、例えば距離の計測をする事で見えるものだとするのが一般的だと思います。

しかし、ここでいう瞬発性能力は、上でも触れていますが、エレメンタルなものを指しています。

だから、他の要因から独立した能力としてのもので、瞬発的な動作行為を発現する為に必要なもの、とでもいいますか…なんというか…。

そうするとですね、一定の距離を走って計って出たタイムは“パフォーマンス”という事になります。タイムを計測する事は、エレメンタルな瞬発性能力を含め、力や持久性も絡み、そこに情報系プロセスを経ながら達成された、“パフォーマンス”となります。

他の要素が絡んでくる、つまり、瞬発性能力それだけで語る事が出来ない事になります。

上でも触れましたが、人が動く以上は“力”が発生します。

すると、純粋な意味での“瞬発性能力”というのは計れていないのではないか、という所から、日本に何度か足を運んでいるDR.VOSSを始めとした研究グループが瞬発性能力の解明に当たっています

そこで解明されつつあることが、上記した二つの言説にあります。
・所与の条件下で最小限の時間内にスポーツ行為を実現する。(ZECIORSKU 1966)
・タイムプレッシャー下で動作を遂行する。(VOSS / WITT / WERTHNER 2007)

この二つから読み取れる大きな事は“時間”です。

人の動作行為の中で生じる時間プログラムをどれだけ早く克服できるか、が瞬発性能力なのではないか、ということです。

例えば、走り幅跳びの踏切の際に接地から離地までには時間がかかりますが、その短い時間の中で素早く動作を遂行できるかどうか、つまりタイムプレッシャーを克服できるかどうか、という点です。

そこでVOSSら研究グループはドロップジャンプを用いて調べた結果、筋の操作調節時間に違いが生じていることを確認しました。トップ選手と非トップ選手との差があったわけです。
d609dde6.png
それを、長時間プログラムと短時間プログラムと名付け、そこに対するトレーナビリティの存在も確認した、というのが大まかな説明になるでしょうか。それが以下のモデルになります。

上で述べた差ですが、トップと非トップの境界線が140ms(milli second)というわけです。



詳しくは、合同会社KoLeSpoから発売されているブックレット「スピードトレーニング-解明と方法-」をご参照ください。



以上の様に、持久性、力、瞬発性とエレメンタル(基礎的、根幹的)なエネルギー系パフォーマンス前提について触れてきました。

最後の瞬発性に関しては、お読みいただいてお分かり頂いたと思うのですが、筋操作調節を一定時間内、つまりタイムプレッシャー環境下で行われるわけですから、“情報系”の能力なのではないか、というのが最近の見方の様です。

さて、以上、エネルギー系プロセスについて簡単ではありますが、終わりたいと思います。
このエネルギー系プロセスを見ていて、改めて思うのは、たとえば力能力だけを向上させたところで安易にパフォーマンスが向上した、とは言えないな、という点です。

何度も申し上げますが、それはあくまでもパフォーマンスの“前提条件”が改善した結果であり、「=運動パフォーマンスの向上」ではありません。

それだけ運動というものは複雑なものである、ということであると共に、一つの要素からなっている、ということは考えられない、というわけです。

僕の個人的な雑感になるのですが、日本においては全体最適化を目指しているにも拘らず、部分最適化を目指している事が多いと思われます。

全体最適化を目指す中で部分最適化を図る事は良いとは思うのですが、部分最適化を図ってばかりいては全体最適化がなされません。

運動パフォーマンスを向上させる為には、前提となる各能力や諸要素を高める事が必要ですが、その前提だけを高める事にその本質はありません。

例えば、コオーディネーショントレーニングだけをやれば運動パフォーマンスが向上するかと言えば、若干の向上は見られるでしょう。

しかし、それだけではいつか頭打ちが来てしまい、結果的にそのトレーニングの中断を余儀なくされるのではないでしょうか。

それは不足していた前提条件が改善されただけであり、本質的に運動パフォーマンス向上したとは言えません。不足分を補っただけです。

今書いた事は自戒を込めた文章な訳ですが、あくまでも全体最適化を見失わずに行きたいものです。

さて、次の記事は、再度DR.HARTMAN(ハルトマン博士)に戻って、「不可欠な運動パフォーマンス前提としてのコオーディネーション能力」です。

ここではコオーディネーション能力の変遷やその内実に触れてみたいと思います。そして、このレポートもそれで最後にします。
今回行われた講座の主幹たる内容には触れたと思いますので。


では、次回もよろしくお願いします。

リンク

ENDO,Ryosuke


引用・抜粋)
?第3回トレーニング科学国際集中講座 in japan 資料中より
編集・著 ライプチヒスポーツ科学交流協会 (KoLeSpo)
?資料の掲載に関しては、KoLeSpo高橋さんの許可を得た上で、「人、年」を表記した形で掲載させていただいております。