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dolog=blogにdo、動詞をつけた造語です。 情報選択行動のlog(記録)として書いていきます。

ドイツはライプツィヒからの帰国 その16

「運動負荷コンセプト(負荷と負担)」



トレーニングを行う際には、選手に対して負荷設定した上で、「この負荷設定だと、だいたいここで潰れてしまう」というラインがありますが、それを“負荷耐性”なんて言い方をすると思います。



ライプツィヒ学派では、質・量的な“負荷”に対して、個体(生体)がどれだけその負荷に耐えられるか、というライン(閾値)を“負担”と表現し、次のように定義します。



負荷… 負荷に要する方式や質量

負担… ある行為の実現に向けて行う、個人別パフォーマンス前提の適用。





(エネルギー系能力の)トレーニング目的は、構造的(形態的)変化を目指すことであり、それは運動生理学の中で言われる「順応(適応)」という現象があって初めて成立します。

さて、その順応という言葉について解説したいと思います。



順応とは… トレーニング負荷あるいはスポーツ活動に対する生体及び機能システムの機能上・構造上の反応、です。



つまり、ある刺激を入れたら、こういう反応が出る、という事ですね。

例えば筋骨隆々の体を作るためには、力を高めるように筋力トレーニングをしなければならないし、マラソンを走る為には、長距離を走れるように有酸素運動を継続して持久能力を高めていく必要があります。



以上のように、刺激に対する反応というのは生体である以上、必ず備えているものであり、それはまた、生体として生きている以上無ければ生きられないものです。



というのも、人間にはホメオステーシス(恒常性)が存在し、常に平衡性を保とうとする機能が備わっていますが、それによって暑熱環境(暑い地域)で生活する場合には、そこに順応する事が出来ます。出来なければ体温調節が上手く行かず、生きていく事は難しいでしょう。



それと一緒で、ある状況・環境に適宜、反応を繰り返す事で、我々のからだは最適化をしていくのです。



順応には3つ領域があります。

1. 活動特有領域(活動特有順応)… 身体活動に応じていく

例えば、腕のちからトレーニングを行うと、

腕は順応しますが、脚は反応しません。

つまり、行った部位専門に発達する、という事です。



2. 能力特有領域(能力特有順応)… 各能力の発達に寄与される

これは、持久系能力が発達する事によって酸素供給量が増えていきますので、

それに伴って身体の毛細血管量が増えていく、という風に能力の発達に

伴って身体がそれに対応して順応していく、という事ですね。



3. 一般的特有領域(一般的特有順応)… 負荷可能性を高める。身体全体の健康に寄与。

基礎持久的(つまり一般的)な範囲で順応していく、という事です。





さて、この“順応”とか“適応”というのは、どういう過程を経てしていくのか、という点でスポーツに関与されている方ならば絶対に耳にする「超回復」というワードが出てきます。



そもそも超回復というのはエネルギー系パフォーマンス前提に当てはまることを前提としており、コオーディネーション能力の様な情報系パフォーマンス前提は管轄外と言っていいと思います。



というのも、エネルギー系と情報系とでは同じパフォーマンス前提でありながらも、「機能が異なる」からで、これをミノウ博士はRoux(ルー)の法則(1895)の定義を用いながら、こう説明してくださいました。



「ある順応というものを進めるためには負荷が一定域を超える必要がある。しかし、情報系に対するアプローチとは異なる。それは疲労が一定域を超えてしまってはならないからだ。」



コオーディネーショントレーニングの“原則”の中にはこうあります。



「実施される身体エクササイズは、コオーディネーション能力が優性的な内容であること」



「心身ともにフレッシュな状態で実施すると最も効果が大きい。したがって過度な心身ストレスを受けた状態で行わないことが望ましい。」



つまり、エネルギー系パフォーマンス前提に対するアプローチと、情報系パフォーマンス前提に対するアプローチを混同する事は望ましくない。という事です。



勿論、これは選手が何処のカテゴリーにあるのかによります。上の年代、つまりトップカテゴリーに近づけば疲労状態での情報系に対するアプローチ、というのも必要になります。



また、この順応を繰り返す事によって、人のDNAにまで変換を促す事は可能だ、とミノウ博士は言います。

それは先天的なものでは無く、後天的な意味で部分的に、という条件付きで。

筋細胞というのは、2%/日の割合で再生産されています。

単純計算しただけでも50日で人間の筋肉は別物になる、という事です。



一般健康スポーツにおいても、体脂肪率30%の人がトレーニングを重ねた結果、体脂肪率が15%に変化したら、これはDNAが変わったと言えるのでは無いでしょうか。除脂肪体重が大きく増えることになるのですから、まさしく“別人”と言えると思います。



その別人になり得るにも、回復プロセスを踏まえた上でトレーニングを継続し、筋細胞の再生産を繰り返して行った結果に得られるものであり、明日起きてみたら別なものになっていた、というカフカの中編小説「変身」のような出来事はまずあり得ません。(カフカの変身は、主人公が虫になってしまう話ですが…)





ここで、気になるのが“最適な負荷”というのがどういうものなの?という事だと思いますが、次回に譲ります。





引用・抜粋)

?トレーニング科学国際集中講座 in Lepzig 基礎資料中

(編集:ライプツィヒ大学スポーツ学部/一般動作学・トレーニング学研究室

翻訳:高橋日出二(ライプツィヒスポーツ科学交流協会))より